広島市中区千田地区の国立大学法人広島大学本部跡地に、新しい街「hitoto広島」として新たに住居、医療、福祉、スポーツ等に関する施設が生まれる。「hitoto広島」として新たに建てられる建物群5施設に、隣接する広島大学東千田キャンパスを加えた計6施設が連携するスマートコミュニティの構築を行うこととなった。そこで、広島ガスの天然ガスによる熱電併給システム「ガスコージェネレーションシステム(CGS)」や「ガスヒートポンプエアコン(GHP)」の導入、災害対策も踏まえた「ガス中圧導管」の直接引込などが決定した。
スマートコミュニティのシステム構成は以下の5点である。
これらの実現により、人と環境にやさしく、災害に強い街づくりが実現することとなる。スマートコミュニティの構築は広島県内では初の取り組みであり、もちろん、広島ガスにとっても初めてのことだ。
今回のプロジェクトは、当社が総合エネルギー会社として取り組む第一歩となる。プロジェクトメンバーは、業務用エネルギー営業部、家庭用エネルギー営業部、供給設備部の各部署において、入社2年目や中堅社員から必要な能力を持つメンバーが選ばれた。メンバーにとってはこれまでの経験・知識をフルに活かす場でもあり、若手を育成する機会でもあり、そして会社としても大きく飛躍するチャンスでもあった。
当社は、天然ガスと電力をベストミックスさせることで、人と環境にやさしく、災害に強い街づくりをめざしている。
当エリアでは、まず、「ガスコージェネレーションシステム(CGS)」を導入した。これは、ガスで発電した際に出る排熱を給湯などに利用できる、エネルギー利用効率が非常に高いシステムだ。給湯を必要とする施設に導入することで、電力会社からの購入電力量を削減できるうえ、発電した電力は当エリア全体の電力デマンドのピークカットにも貢献できるため、経済性にも省エネルギー性にも効果が大きい。さらに省エネルギー化を進めるために、電気とガスを一元管理する「エネルギー管理システム(EMS)」を導入し、‘エネルギー利用状況の見える化’も実現した。通常のEMSは、電気使用量だけを管理することが多い。しかし、今回は環境性に優れているガス機器を多数利用しているため、「ガスコージェネレーションシステム(CGS)の運転状況」「ガスヒートポンプエアコン(GHP)の室外機・室内機の利用状況」「ガス使用量」も、クラウドを利用して管理できる仕組みにした。このシステムは、エリア全体のエネルギー利用状況をタウンマネジメント会社とガス事業者による二元管理で行うため、エリア全体の省エネに寄与できるようになった。災害対策としては、非常時などに電力会社からの供給電力が停電した際にも、エリア内で電力を使えるような仕組みを検討した。そこで、「ガスコージェネレーションシステム(CGS)」に、停電時にも自立運転ができるBOS(Black Out Start)機能付きを採用し、非常用電源としての活用も可能にした。
「hitoto広島」構想が決まった段階では、スマートコミュニティとしてのエネルギー供給形態や設計は白紙状態であったため、まさにゼロからの出発で、解決すべき課題は山ほどありました。災害時でもガスや電気を使用できるようにするためのガス発電設備の仕様は?その設置場所は?ガス配管や配電線のルートは?高額の設備費負担をいかに軽減するか?等、次々と大きな壁にぶつかりました。また、前例のない取り組みばかりのため、社内でも「本当にできるのか」「うまくいくのか」といった不安の声が何度も上がりました。しかし、そうした状況の中、「どうしたらできるのか」と考え、解決方法を探りながら乗り越えていくのが、私の役割でした。もちろん、どの課題も一人で解決できるものはなく、社内関連部署との調整はもちろん、「hitoto広島」関連事業者様や、官公庁など、様々な事業者・担当者との相談・調整の繰り返しでした。
数多くの課題の中で特に思い出されることは、主に二点あります。
一点目は、ガス発電設備の昇圧運転を実施するべきかどうか、社内でもかなり検討を要したことです。ガス発電設備の発電電圧は通常200Vですが、災害時に「hitoto広島」構内全体への電力供給を可能とするためには、6600Vの電圧が必要なため、発電電圧の昇圧が鍵となりました。ガス発電設備の昇圧を実施した例は全国的にもほぼなく、電気の知識・経験のあるメンバーと何度も検討しました。メンバー間の意見が分かれて模索しましたが、最終的には、必要機能を重視し、設置することに決めました。これも「できない理由を挙げて避ける」のではなく、「どうしたらできるのか」にこだわって粘り強く検討を重ねた成果だと思います。
二点目は、ガス管と電気自営線の市道への共同敷設決定までの過程です。一括受電設備から使用設備までのガス配管と電気自営線の共同敷設は、市道に埋設する必要がありました。市道に電気自営線を埋設した前例はなく、道路管理者への説明に約3か月間も要しました。難しい案件でしたが、スマートコミュニティの有用性や国を挙げて勧められている事業であることなどの趣旨をご理解いただき、認可をいただくことができました。
今回のプロジェクトは、入社2年目の若手社員を含めた6名が中心となって進めました。皆が力を合せて多くの難題に挑む過程は、当社が将来「総合エネルギー会社」として成長していくために若手を育成する、絶好の機会でもありました。営業の業務には「調整能力、提案能力、解決能力」等が必要ですが、今回はこれらに加えて、「情報感度を高く持ち、得た情報・知識を柔軟に取り入れる」力を重視しました。電力・ガスの自由化など事業環境が大きく変化する中で当社がさらに成長していくためには、欠かせない能力です。「どうすればできるか」「どう動けばよいか」を全員で検討しながら動いたことで、社内も社外も動かしながら、今回のプロジェクトを成功させることができたと感じています。努力を惜しまず果敢に挑むメンバーが揃ったことは、本当に恵まれていました。
「hitoto広島」に関する問い合わせは社内・社外からも多く、スマートコミュニティの注目度の高さを改めて実感しています。また、すでに第二・第三のスマートコミュニティや、広島ガスでは前例のないスマートタウンの検討も始まっています。街づくりやエネルギーの高効率利用といった面で、これからは業界を越えて新たな動きが出てくるかもしれません。こうした変化の中でも、広島ガスは「総合エネルギー企業」としてイニシアティブを取っていきたいと思います。今回のプロジェクトで培った経験や、「できないことをできるように」工夫と努力を重ねて壁を乗り越える力を活かして、取り組んでいきたいと思います。
なお、本稿において、データのご提供をいただいた、三菱地所レジデンス(株)をはじめとする事業者実施者各社様に深く感謝を申し上げます。